労働基準法
労働基準法では、労働時間について、原則として、使用者は、労働者に休憩時間(第34条)を除き1日について8時間、1週間について 40時間を超えて労働させてはならないとしています(第32条)。また毎週少なくとも1回の休日が必要です(第35条)。これらの法定労働時間を超えて又は法定休日に労働させるには、災害などの特別な場合(第33条)を除いて、労使協定の締結・届出が必要です(第36条)。あわせて、使用者は、特別な場合であってもなくても、また労使協定の締結や届出をしてもしてなくても、法定時間外や法定休日に労働をさせたときには、その分の割増賃金を支払わなくてはなりません(第37条)。他方で、労基法は、これらの規定の適用が除外される労働者について、定めを設けています。それが、第41条の「適用除外」です。
労基法第41条は、事業や業務の性質又は態様が法定労働時間や週休制を適用するに適しないとして、その事業又は業務に従事する労働者について、労働時間、休憩及び休日に関する規定を適用しないとしています。
労働時間等に関する規定の適用除外(法41条、則34条)
労働基準法第4章[労働時間、休憩及び休日]、第6章[年少者]及び第6章の2[妊産婦等]で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次のいずれかに該当する労働者については適用しない。
① 別表第1第6号[農林業](林業を除く。)又は第7号[畜産・水産業]に掲げる事業に従事する者
② 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
③ 監視又は断続的労働に従事する者で,使用者が行政官庁(所轄労働基準監督署長)の許可を受けたもの
所轄労働基準監督署長の許可が不要な者
(1)農業又は畜産・水産業の事業に従事する者
別表第1第6号(農林業(林業を除く))、第7号の事業に従事する者(畜産業、水産業に従事する者)である。したがって林業に従事する者については、労働時間等に関する規定が適用される。この種の事業がその性質上季節や天候等の自然条件に左右されるため、法定労働時間及び週休制になじまないと考えられるからです。なお、林業は、従来より指摘されてきた労働者の法的地位の不安定などが考慮され、適用除外の対象から外されました。
(2)監督又は管理の地位にある者
いわゆる「管理監督者」と呼ばれる者のことであるが、「部長、工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者の意であり、名称にとらわれず、実態に即して判断すべきものである」とされている。(昭和22.9.13発基17号、昭和63.3.14基発150号)
したがって、企業が人事管理上、あるいは経営政策上の必要性から任命する職制上の役付者であれば直ちに認められるというわけではありません。重要な職務と責任を有し、現実の勤務態様も実態を判断して、労働時間等の規制になじまないと言える者に限られます。また、給与や役付手当やボーナスも、一般労働者に比してその地位にふさわしく優遇されているかにも留意する必要があります。なお、本社の企画、調査等の部門に配置されるスタッフ職については、処遇程度によって本号該当と認められるとされています。
(3)機密の事務を取り扱う者
秘書その他職務が経営者又は監督若しくは管理の地位にある者の活動と一体不可分であって、厳格な労働時間管理になじまない者をいう。(昭和22.9.13発基17号)
所轄労働基準監督署長の許可が必要な者
監視又は断続的業務に従事する者
通常の労働者と比較して労働密度が疎であり、労働時間、休憩、休日の規定を適用しなくても、必ずしも労働者保護に欠けるところがないからであるとされています。ただし、「監視又は断続的労働」であっても適用除外となるためには、「使用者が行政官庁の許可を受けたもの」
に限られることに注意してください。
具体的には、事業場を管轄する労基署長の許可(規則第34条)がなくてはなりません。もし、許可がなければ、時間外・休日割増賃金、法定休日、休憩等が通常どおり適用になります。これは、「宿日直又は日直の勤務で断続的な業務」(規則第23条)についても同様です。
(1)監視に従事する者
監視に従事する者は、原則として、一定部署にあって監視するのを本来の業務とし、常態として身体又は精神的緊張の少ないものについて許可する。したがって次のようなものは許可しない。
- 交通関係の監視、車両誘導を行う駐車場等の監視等精神的緊張の高い業務
- プラント等における計器類を常態として監視する業務
- 危険又は有害な場所における業務
(昭和22.9.13発基17号、昭和63.3.14基発150号)
(2)断続的労働に従事する者
休憩時間は少ないが手待時間が多い者をいい、次のものであって所轄労働基準監督署長の許可を受けたものがこれに該当する。
- 寄宿舎の管理人や賄人、修繕係、鉄道踏切番、役員専属自動車運転手等、本来の業務が断続的労働である者
- 常態としては通常の業務をしているが、時間外又は休日に宿直又は日直の勤務で断続的な業務を行う者
- 一方、タクシー運転手や常備消防職員など相当の精神的緊張や危険を伴う業務に従事する者は断続的労働に従事する者に該当せず、また、新聞配達従業員の労働も断続的労働とは認められない。
(則23条、昭和22.9.13発基17号、昭和23.4.5基収1372号、昭和23.5.5基収1540号、昭和23.2.24基収3562号、昭和34.3.9基収6763号)
法第41条は、労働時間、休憩及び休日の規定を適用除外としているものであり、深夜業や年次有給休暇の関係規定は適用が除外されるものではない。
したがって、法第41条により労働時間等の適用除外を受ける者であっても、深夜業に対する割増賃金は支払わなければならず、また、年次有給休暇を付与する義務もある。
ただし、労働協約、就業規則その他によって深夜業の割増賃金を含めて所定賃金が定められていることが明らかな場合には別に深夜業の割増賃金を支払う必要はない。
(昭和22.11.26基発389号、昭和63.3.14基発150号、平成11.3.31基発168号)
参考通達
宿直又は日直勤務の認可基準
宿直又は日直の勤務で断続的労働として許可されるためには、原則として、宿直勤務1回についての宿直手当(深夜割増賃金を含む)又は日直勤務1回についての日直手当の最低額が、当該事業場において宿直又は日直の勤務に就くことの予定されている同種の労働者に対して支払われている賃金(法第37条の割増賃金の基礎となる賃金に限る)の1人1日平均額の3分の1を下らないことが必要であり、勤務回数が、原則として、宿直勤務については週1回、日直勤務については月1回を限度としていることが必要である。(昭和22.9.13発基17号、昭和63.3.14基発150号)
勤務の態様
- 常態としての、ほとんど労働する必要のない勤務のみを認めるものであり、定時巡視、緊急の文書又は電話の収受、非常事態に備えての待機等を目的とするものに限って許可されます。
- 原則として、通常の労働の継続は許可しないこと。したがって始業又は終業時刻に密着した時間帯に、顧客からの電話の収受又は盗難・火災防止を行うものについては、許可されません。
管理監督者性の判断基準
管理監督者に該当するか否かについては、一般的には、次の要素を基準として判断される。
- 職務内容(責任と権限の程度)-経営方針の決定に参画したり、労務管理上の指揮権限を有するなど、経営者と一体的な立場にあり、一定の裁量的権限を有しているか。
- 勤務態様(勤務時間の自由度)-出退勤について厳格な規制や管理を受けず、自己の勤務時間について自由裁量を有しているか。
- 待遇(賃金等の待遇面での優遇度)-基本給や役職手当(管理職手当)の支給、賞与等の待遇面において、一般従業員よりも優遇されているか。
管理監督者
労働基準法第41条第2号に規定する「監督若しくは管理の地位にある者」(以下「管理監督者」という)は、同法が定める労働条件の最低基準である労働時間、休憩及び休日に関する規定の適用が除外されるものである)
したがって、その範囲については、一般的には、部長、工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者であって、労働時間、休憩及び休日に関する規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない、重要な職務と責任を有し、現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないような立場については、資格及び職位の名称にとらわれることなく、職務内容、責任と権限、勤務態様に着目する必要があり、賃金等の待遇面についても留意しつつ、総合的に判断することとしているところである。(平成20.4.1基監発0401001号)
多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の具体的な判断要素について
管理監督者の「職務内容、責任と権限」「勤務態様」「賃金等の待遇」について、多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗の実態を踏まえ、店長等の管理監督者性の判断に当たっての特徴的な要素を具体的に整理した通達が平成20年に発出された。
管理監督者性を否定する 重要な要素 | 管理監督者性を否定する 補強要素 | |
職務内容、 責任と権限 | ①アルバイト・パート等の採用について責任と権限がない ②アルバイト・パート等の解雇について職務内容に含まれず、実質的にも関与しない ③部下の人事考課について職務内容に含まれず、実質的にも関与しない ④勤務割表の作成、所定時間外労働の命令について責任と権限がない | |
勤務態様 | ①遅刻、早退等により減給の制裁、人事考課での負の評価など不利益な取扱いがされる | ①長時間労働を余儀なくされるなど、実際には労働時間に関する裁量がほとんどない ②労働時間の規制を受ける部下と同様の勤務態様が労働時間の大半を占める |
賃金等の 待遇 | ①時間単価換算した場合にアルバイト・パート等の賃金額に満たない ②時間単価換算した場合に最低賃金額に満たない | ①役職手当等の優遇措置が割増賃金が支払われないことを考慮すると十分でなく労働者の保護に欠ける ②年間の賃金総額が一般労働者と比べ同程度以下である |
※他の要素を含め総合的に判断 (平成20.9.9基発0909001号別添表)
- 管理職の名称であっても、労基法第41条第2号が適用になる場合は、上記の場合に限られています。重要な職務と責任があるか、現実の勤務態様はどうか、給与や役付手当やボーナスについても、一般労働者に比してその地位にふさわしく優遇されているか等について検討が必要です。
- 警備員だからといって当然に第41条第3号が適用になるわけではありません。基準を満たし、労基署長の許可を得なければなりません。許可の内容である労働の態様、員数についても確認が必要です。
特に、警備業務の許可基準については、「警備業者が行う警備業務に係る監視又は断続的労働の許可について」(平5・2・24基発 110号)があり、厳しい制約があります。
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