労働者災害補償保険法
業務災害とは
業務災害とは、労働者が業務を原因として被った負傷、疾病または死亡(以下「傷病等」)をいいます。業務と傷病等との間に一定の因果関係があることを「業務上」と呼んでいます。(いわゆる「業務起因性」。)
業務遂行性と業務起因性
業務災害に該当するかどうかは、業務起因性が認められなければならず、業務起因性が認められ業務上の傷病等であるとされるためには、その前提条件として、業務遂行性が認められなければならないとされています。
業務起因性とは、「業務に内在している危険有害性が現実化したと経験則上認められること」をいいます。また、業務遂行性とは、「労働者が労働契約に基づいて事業主の支配下にある状態で、命じられた業務に従事しようとする意思行動性」をいいます。
派遣労働者に係る業務災害の認定 … 通達
派遣労働者に係る業務災害の認定に当たっては、派遣労働者が派遣元事業主との間の労働契約に基づき派遣元事業主の支配下にある場合及び派遣元事業と派遣先事業との間の労働者派遣契約に基づき派遣先事業主の支配下にある場合には、一般に業務遂行性があるものとして取り扱う。なお、派遣元事業場と派遣先事業場との間の往復の行為については、それが派遣元事業主又は派遣先事業主の業務命令によるものであれば、一般に業務遂行性が認められるものである。(昭和61.6.30基発383号)
業務起因性の判断基準 … 判例
労災保険法が労働者の業務上の負傷、傷病等(以下「傷病等」という。)に対して補償するとした趣旨は、労働災害発生の危険性を有する業務に従事する労働者が、その業務に通常伴う危険の発現により傷病等を負った場合に、これによって労働者が受けた損害を填補するとともに、労働者又はその遺族等の生活を保障しようとするものである。したがって、保険給付の要件として、使用者の過失は要しないとしても、業務と傷病等との間に合理的関連性があるだけでは足りず、当該業務と傷病等との間に当該業務に通常伴う危険性が発現したという相当因果関係が認められることが必要である。 (最二小昭和51.11.12熊本地裁八代支部公務災害事件)
業務遂行性は次のような3つの類型に分けることができます。
事業主の支配・管理下で業務に従事している場合
所定労働時間内や残業時間内に事業場施設内において業務に従事している場合
この場合の災害は、被災した労働者の業務としての行為や事業場の施設・設備の管理状況などが原因となって発生するものと考えられので、特段の事情がない限り、業務災害と認められます。
事業主の支配・管理下にあるが、業務に従事していない場合
昼休みや就業時間前後に事業場施設内にいて業務に従事していない場合
出勤して事業場施設内にいる限り、労働契約に基づき事業主の支配・管理下にあると認められますが、休憩時間や就業前後は実際に業務をしてはいないので、この時間に私的な行為によって発生した災害は業務災害とは認められません。ただし事業場の施設・設備や管理状況などが原因で発生した災害は業務災害となります。
なお、トイレなどの生理的行為については、事業主の支配下で業務に附随する行為として取り扱われますので、このときに生じた災害は就業中の災害と同様に業務災害となります。
事業主の支配下にはあるが、管理下を離れて業務に従事している場合
出張や社用での外出などにより事業場施設外で業務に従事している場合
事業主の管理下を離れてはいるものの、労働契約に基づき事業主の命令を受けて仕事をしているときは事業主の支配下にあることになります。この場合積極的な私的行為を行うなど特段の事情がない限り、一般的には業務災害と認められます。
具体的事例で業務災害に該当するか否かは次回以降で説明します。


