自動変更対象額|労災保険

勉強を楽しい作業に変える

自動変更対象額

労災保険制度で用いる給付基礎日額については、前回説明した通り、原則として労働基準法第12条に規定する平均賃金相当額とされていますが、被災時の事情により給付基礎日額が極端に低い場合があるため、それを是正し、補償の実効性を確保する必要があることから、その最低保障額である自動変更対象額を定めることとしています。この自動変更対象額は、毎月勤労統計の平均給与額の変動に応じて、変更することとされています。2018年末以降、不適切な毎月勤労統計の発覚がありましたよね。

 

最低保障 (則9条1項5号、平成30年厚労告287号)

平均賃金に相当する額又は労働者災害補償保険法施行規則第9条第1項第1号から第4号[私傷病休業者、じん肺患者の特例等]に定めるところによって算定された額(以下「平均賃金相当額」という。)が自動変更対象額(3,970円)に満たない場合には、自動変更対象額(3,970円)とする。

★令和元年厚生労働省告示第69号により、令和元年8月1日から令和2年7月31日までの労災保険の自動変更対象額(給付基礎日額の最低保障額)は、3,970とされました。(改定前3,950円)

 

原 則

平均賃金相当額が自動変更対象額(3,970円)に満たない場合には、原則として、自動変更対象額(3,970円)が最低保障される。

平均賃金相当額<自動変更対象額のとき ⇒ 自動変更対象額=給付基礎日額

 

 

スライドが適用される場合の特例

労災保険の年金額については、原則として算定事由発生日(被災日)の賃金を基礎に算定した給付基礎日額に給付の種類等に応じた給付日数を乗じて算定されています。※「給付基礎日額」の何日分又は何%という形で算定。

しかしながら、年金は長期にわたって給付することになるため、被災時の賃金によって補償を続けていくとすると、その後の賃金水準の変動が反映されないこととなり、また、過去に被災した労働者と近年被災した労働者との補償水準が大きく異なってくる等、公平性を欠くこととなります。(被災時の賃金 ≠ 現在の賃金)

このため、労災保険においては、給付基礎日額を賃金水準の変動に応じて改定する制度(スライド制)を取り入れています。

スライドによる年金額の改定は、一般の労働者一人あたりの平均給与額の変動率を基準として、厚生労働大臣が定める改定率(スライド率)により、翌年度の8月1日以降に支給すべき年金給付について行われます。

スライド率の算定は、算定事由発生日(被災日)の属する年度の平均給与額と、支給年度の前年度の平均給与額(令和元年8月1日からの1年間のスライド率であれば平成30年度の水準)を比較して計算されます。

したがって、平均給与額が前年度より上昇していれば年金額が増加しますが、下降していれば年金額も減少することになります。

スライドが適用されるのは、年金たる保険給付又は障害(補償)一時金若しくは遺族(補償)一時金となります。

(1)特例①

平均賃金相当額が自動変更対象額未満であっても、平均賃金相当額にスライド率を乗じた額が自動変更対象額以上の場合は、その平均賃金相当額が給付基礎日額となる。

平均賃金相当額×スライド率≧自動変更対象額 ⇒ 平均賃金相当額=給付基礎日額

 

【例 】

平均賃金相当額=3,800円 スライド率が110%の場合

⇒スライド後の額が、3,800円×110%=4,180円と、自動変更対象額(3,970円)以上になるので、給付基礎日額は平均賃金相当額の3,800円となる。

 

(2)特例②

平均賃金相当額が自動変更対象額未満であり、平均賃金相当額にスライド率を乗じた額も自動変更対象額未満の場合は、自動変更対象額をスライド率で除して得た額(1円未満切捨て)が給付基礎日額となる。

平均賃金相当額×スライド率<自動変更対象額 ⇒ 自動変更対象額÷スライド率=給付基礎日額

【例 】

平均賃金相当額=3,600円 スライド率が105%の場合

⇒スライド後の額が、3,600円×105%=3,780円と、自動変更対象額(3,970円)に満たないため、給付基礎日額は、3,970円÷105%=3,780円(1円未満の端数は切捨て)となる。

 

<ご参考>

令和元年8月~令和2年7月分の労災年金給付等に使用する年金スライド率

算定事由発生日の属する期間年金給付基礎日
額の算定に用い
る率
(単位%)
H 元年4 月1 日~ 2 年3 月31116.9
 2 年4 月1 日~ 3 年3 月31113.6
 27 年4 月1 日~ 28 年3 月31 日101.3
 28 年4 月1 日~ 29 年3 月31 日101.1
 29 年4 月1 日~ 30 年3 月30 日100.5

 

 

自動変更対象額の変更 (則9条2項、3項、4項)

Ⅰ 厚生労働大臣は、年度の平均給与額が直近の自動変更対象額が変更された年度の前年度の平均給与額を超え、又は下るに至った場合においては、その上昇し、又は低下した比率に応じて、その翌年度の8月1日以後の自動変更対象額を変更しなければならない。

Ⅱ 自動変更対象額に5円未満の端数があるときは、これを切り捨て、5円以上10円未満の端数があるときは、これを10円に切り上げるものとする。

Ⅲ 厚生労働大臣は、ⅠⅡの規定により自動変更対象額を変更するときは、当該変更する年度の7月31日までに当該変更された自動変更対象額を告示するものとする。

★自動変更対象額は、毎月勤労統計の平均給与額の変動に応じて、毎年自動的に変更されることになっています。

言葉の定義

●年度

「年度」とは、4月1日から翌年3月31日までをいう。

●平均給与額

「平均給与額」とは、厚生労働省において作成する毎月勤労統計における労働者1人当たりの毎月きまって支給する給与の額の4月分から翌年3月分までの各月分の合計額を12で除して得た額をいう。

 

ご参考

 

記憶に新しいと思いますが、毎月勤労統計調査の不適切な取り扱いがありましたよね。

 

 

 スライド率等の算定にあたり、毎月勤労統計調査のきまって支給する給与額を基礎としていたことから、平成31(2019)年1月に公表された毎月勤労統計の不適切な取り扱いによって、平成16(2004)年以降の年金スライド率及び一時金換算率、平成17(2005)年以降の給付基礎日額の最低保障額(自動変更対象額)及び年齢階層別最低・最高限度額のうち、65歳以上の方に適用される最低限度額に変更が生じています。
資格校紹介
2020年8月23日(日)に第52回社会保険労務士試験が実施されました。 今年度の受験申込者数は約49,200人でした。 合格率は10%を切るほどの難関資格の一つです。 しかし、働き方改革の影響もあり、社労士への期待とニーズは高まっているため多くの方が目指されています。あらゆることに共通しますが、何かを成し遂げようとするときには計画を立て目標に向けて実行し続けることが重要です。多くのライバルが存在するからこそ、学習を早めに始めることがとても大切になります。社労士資格校を紹介します。通学ではなく手軽にスキマ時間で学習できる資格校を選んでおります。
社労士試験用教材のご紹介
独学で取得を目指す方も多いですよね。私もその一人でした。しかし、勉強を始めるにあたりどのテキストを選べば良いのか、迷っている方も多いのではないでしょうか。そこで今回は、そんな社労士試験用テキストをご紹介していきます。最短期間での合格を目指して、しっかり対策を立てていきましょう!
労働法関連書籍のおすすめ本(入門書~実務書)
労働法を入門から実務まで精通するための良本を紹介します。
資格に役立つ暗記法|ICレコーダー
スポンサーリンク【社会保険労務士事務所の仕事がわかる本】
実務からイメージが掴める!労働保険の実務相談
この記事が気に入ったら
いいね!しよう
最新情報をお届けします。
労働者災害補償保険法
Taka-DAIをフォローする
社労士独学応援ナビ|Taka-DAI e_Learning
タイトルとURLをコピーしました