今回は、脱退一時金について説明します。脱退一時金は、外国人のために設けられた制度です。国民年金と厚生年金保険の両方に設けられています。
現在の日本の年金制度は、国内に居住ししている限り外国人であっても強制適用です。日本に長年住む場合はよいのですが、短期間だけ在住して本国へ帰ってしまうケースもあります。その場合、日本で加入した期間分だけでは10年要件を満たせませんので、その分の保険料は掛け捨てになってしまいます。受給資格期間が10年以上ある方(老齢年金を受ける権利がある方)は、脱退一時金を受け取ることができません。
将来、日本の老齢年金として受け取ることができるからです。
一番良いのは、国際年金通算協定を結ぶことです。たとえば、ドイツとは平成12年2月1日に国際年金通算協定が結ばれていますが、これによりドイツ人が、ドイツで15年、日本で10年、それぞれの国の年金制度に加入した場合は、これを通算して、年金はドイツから15年分、日本から10年分の支給を受けます。
これが最も良い方法ですが、国際年金通算協定は、日本と各々の国が個別に締結する必要があります。厚生労働省も頑張っていて、2018年8月時点における、社会保障協定の発効状況は以下のとおりです。日本は21ヶ国と協定を署名済で、うち18ヶ国は発効しています。「保険料の二重負担防止」「年金加入期間の通算」は、日本とこれらの国の間のみで有効です。
協定が発効済のところ
ドイツ、アメリカ、イギリス、韓国、カナダ、ベルギー、フランス、オーストラリア、オランダ、チェコ、スペイン、アイルランド、ブラジル、スイス、ハンガリー、インド、 ルクセンブルク、フィリピン
署名済未発効の国
イタリア スロバキア 中国
ただし、イギリス、韓国、イタリア及び中国については、「保険料の二重負担」を防止するために加入するべき制度を二国間で調整する「保険料の二重負担防止」のみの協定です。その他の国とは、「保険料の二重負担」と保険料の掛け捨てとならないために、日本の年金加入期間を協定を結んでいる国の年金制度に加入していた期間とみなして取り扱い、その国の年金を受給できるようにする「年金加入期間の通算」の双方を締結しています。
多くの主要国との締結を果たすまでには、まだまだ時間がかかります。
そこで、協定を締結していない国の国民のために平成6年に設けたのが脱退一時金の制度です。それらの国の国民が短期間(10年未満)だけ在住した場合は、本人の申出により、支払った保険料の半額を返還するというものです。半額であっても、全額払い損であった過去から比べると、ずいぶん大きな進歩といえるでしょう。支払った保険料の半額は後述の支給額で実態がわかります。
支給要件
(1)国民年金
①請求日の前日において、請求の日の属する月の前月までの第1号被保険者としての
被保険者期間に係る次の(ⅰ)~(ⅳ)の月数を合算した月数が6月以上である
こと。
(ⅰ)保険料納付済期間の月数
(ⅱ)保険料4分の1免除期間の月数の4分の3に相当する月数
(ⅲ)保険料半額免除期間の月数の2分の1に相当する月数
(ⅳ)保険料4分の3免除期間の月数の4分の1に相当する月数
②日本国籍を有しないもの(被保険者でないものに限る)
③老齢基礎年金の受給資格期間を満たしていないもの、その他これに準ずるものとして
政令で定めるものであること
(2)厚生年金保険
①厚生年金保険の被保険者期間が6月以上であること
②日本国籍を有しないもの(国民年金の被保険者でないものに限る)
③老齢厚生年金の受給権を満たしていないこと
請求できない理由
(1)国民年金
- 日本国内に住所を有するとき
- 障害基礎年金等の受給権を有したことがあるとき
- 最後に被保険者の資格を喪失した日(同日において日本国内に住所を有していた者 にあっては、同日後はじめて、日本国内に住所を有しなくなった日)から起算して 2年を経過しているとき
- その他
(2)厚生年金保険
- 日本国内に住所を有するとき
- 障害厚生年金その他政令で定める保険給付の受給権を有したことがあるとき
- 最後に国民年金の被保険者の資格を喪失した日(同日において日本国内に住所を有していた者にあっては、同日後はじめて、日本国内に住所を有しなくなった日)から起算して2年を経過しているとき
- その他
支給額
(1)国民年金
最後に保険料を納付した月が属する年度と、保険料納付済月数に応じて、
以下のとおりとなります。
平成30年4月から平成31年3月までの間に保険料納付済期間を有する場合の受給金額
※上表で、対象月数が6月以上12月未満の者は、49,020円となっておりますが、
6月以上12月未満の最も少ない月数である6月を取ります。
平成30年度の国民年金の保険料は、16,340円です。
49,020円/16,340円=3月分であることがわかります。
6か月分の保険料の3か月分、要するに半額返しということです。
(2)厚生年金保険
平均標準報酬額(再評価なし)×支給率
支給率とは、最終月(最後に被保険者の資格を喪失した日の属する月の前月)の
属する年の前年(最終月が1月から8月までの場合にあっては、前々年)の10月の
保険料率の2分の1を乗じて得た率に、下表の被保険者本人の区分に応じた数を乗じて
得た率です。よって、被保険者の区分に応じて、保険料率×1/2×(6~36)で
求められます。
それでは、また次回をお楽しみに!!

